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東京高等裁判所 昭和57年(う)542号 判決 1983年2月14日

裁判所書記官

斉藤茂雄

本店所在地

埼玉県大宮市北袋町一丁目二九九番地八

株式会社コスモス

右代表者代表取締役堀口昭一

本籍

鹿児島県肝属郡東串良町川東三九六五番地

住居

埼玉県大宮市北袋町一丁目一九〇番地の二

平和台マンションA四二五号

会社役員

堀口昭一

昭和一七年七月一〇日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、昭和五七年二月二五日浦和地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人両名の弁護人から控訴の申立があったので、当裁判所は検察官宮本喜光出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人三好徹、同内藤満、連名の控訴趣意書に、これに対する答弁は検察官宮本喜光名義の答弁書に各記載されたとおりであるから、これらを引用する。

控訴趣意第一(不法公訴受理の主張)について

所論は、要するに、本件公訴は法の下の平等の原則に反し、検察官の裁量権の範囲を著しく逸脱してなされた違法なもので、刑訴法三三八条四号によりこれを棄却すべきであったのに、原判決がその措置に出ないで有罪判決を言い渡したのは、同法三七八条二号所定の不法に公訴を受理した違法がある、というのであり、その理由として、被告人株式会社コスモス(以下単に被告会社という)の昭和五四年六月期の法人税確定申告につき、代表取締役である堀口昭一(以下単に被告人堀口という)は、右申告事務を松井弘税務会計事務所に一任していたところ、同事務所の担当者であった松井道人は被告会社の右事業年度の所得金額が実際は約三億五、〇〇〇万円であったのに、不注意と怠慢により誤った計算をして、所得金額が約七億円で、税額はその六〇ないし七〇パーセントである旨報告したので、被告人堀口は、それでは被告会社の担税能力からみて支払いが不可能なため、右松井道人に「なんとかしてくれ」と頼みこんだのであるが、同人は違法申告を諌めることなく、かえって主導的に過少申告の手引きをしたうえ、同人の独自の判断によって虚偽過少申告の具体的な方法を画策し、期末買掛金及び未払金残高を二・五倍に水増し計上するなどして所得を圧縮し、本件虚偽過少の法人税確定申告書を作成して所轄税務署に提出したもので、被告人堀口は単に申告書が完成したことだけ告げられていたというのが事実であるとしたうえ、この経過からすると、松井道人は本件発生の端緒に関して重大な責任があるだけでなく、主導的に具体的な犯行計画を立て、かつ実行したものであり、動機の点においても被告人堀口が会社の倒産を免れ、多数の従業員の生活を守るため、窮余の一策として所得の圧縮を依頼したのに対し、松井道人の方は職業として税務に携わる者の自覚に欠け、営利本位に安直に違法申告の計画を押し進めるなど、社会的非難可能性の程度は同人の方がはるかに大きく、また、税理士である松井弘が本件に全く関与していないと考えるのは極めて不自然であるのに、被告会社及び被告人堀口に対してのみ告発がなされて起訴されるに至り、他方で松井弘及び松井道人に対する告発や、刑事責任追及の特段の捜査が行われていないのは、著しく均衡を失して不公正であり、右不公正を黙認してあえて行った本件公訴提起は、検察官の裁量権を逸脱した違法なものである、と主張している。

そこで検討すると、本件訴訟記録によれば、被告会社の本件事業年度の法人税確定申告は、被告人堀口からその委任を受けた松井弘税務会計事務所の事務員松井道人によって事務処理がなされ、同人も被告人堀口との打合せにより、右申告が虚偽過少申告であることは十分承知していたもので、本件公訴事実にも、「被告人堀口は松井道人と共謀のうえ・・・・・本件逸脱をした」とされているが、松井道人自身に対して右共謀の責任を問う起訴がされていないことは所論のとおりである。

しかしながら、被告人自身に対する捜査が刑訴法にのっとり適正に行われ、その思想、信条、社会的身分または門地などを理由に、一般の場合に比べ捜査上不当に不利益に取り扱われたものでないときは、かりに当該被疑事実につき被告人と共犯関係に立つ疑いのある者が、捜査において不当に有利な取扱いを受け、事実上刑事訴追を免れるという事実があったとしても、そのために被告人自身に対する捜査手続が憲法一四条に違反することにはならないと解すべきところ(最高裁昭和五六年六月二六日第二小法廷判決、刑集三五巻四号四二六頁参照)、本件訴訟記録を精査しても、本件捜査の過程において、被告会社ないし被告人堀口が、その思想、信条、社会的身分、門地などを理由に、一般の場合と比較し不当に不利益に取り扱われた形跡は認められないうえ、本件公訴提起が検察官の裁量権を逸脱したという疑念を容れる余地も認められないから、刑訴法三三八条四号による公訴の棄却をしなかった原判決の措置は当然であって、所論は到底採用することができない。論旨は理由がない。

控訴趣意第二(量刑不当の主張)について

所論は、要するに、原判決の量刑は重過ぎて不当である、というのである。

そこで検討すると、本件は一事業年度だけの法人税逋脱犯であるが、逋脱額が約八、八〇〇万円という多額であり、正当所得金額及び税額に対する申告率はともに約三七パーセントにすぎない。また、脱税の動機、経過等をみても、被告人堀口は被告会社の発足当時から、会社を早く成長、安定させるため、成長のための投資が先で税金は少なく納め、適正な納税は会社の安定後にすればよいとの方針をとっていたが、本件確定申告に際しても右方針に基づき、脱税のための所得圧縮を行ったもので、査察の結果実際の被告会社の所得は三億五、六〇五万円余と認められるのに、前記松井道人において、当該年度の決算に関し、前年度の被告会社の決算に際し所得圧縮のため、約一億八、四〇〇万円の次年度分の経費先取りによる損金水増し計上をしたことを考慮せず、また正常の経費の計上もれもかなりの額を見落したため、誤って利益を過大に計算して、「利益は約八億円で、減価償却費約二億円弱を差し引くと、利益は約六億円強となる。」旨報告したこともあったが、被告人堀口はこれに対して、「なんとかしてくれ、八、〇〇〇万円ぐらいにならないか。」と言って所得圧縮を強く要望したので、右松井が「前年と比べて売上が倍増しているので、それではとても通らない。」と言って説得した結果、申告所得金額を約一億三、〇〇〇万円とすることに合意され、その線に従って松井道人において所論のような経費の水増し計上、ないしは架空経費の計上等の不正経理操作により所得を圧縮したうえ、本件虚偽過少の確定申告をするに至ったことが認められる。そうすると、被告人堀口の納税意識は稀薄であって酌量の余地に乏しいといわざるを得ず、しかも前年度から本件と同様の不正手段による所得の圧縮を継続して行っていて偶発的犯行でないことなどに するとその責任は相当に重いといわなければならない。

してみると、被告人堀口が事業活動に精励し、事業拡大に努力した結果、被告会社が原判示のような実際所得をあげるまでに至ったこと、前記松井道人が本件につき共謀者とされながら不起訴となっており、申告の責任者たるべき松井弘税理士が、監督不行届責任だけ問われて国税局から戒告処分を受けるにとどまったことについて、被告人堀口の側にいささか不公平感を抱かせることは否めないという事情を考慮しても、被告会社を罰金二、二〇〇万円(逋脱額の約二五パーセントにあたる)に、被告人堀口を懲役一年六月、但し三年間刑の執行猶予に処した原判決の量刑は相当であって、重過ぎて不当であるとはいえないから、論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 海老原震一 裁判官 和田保 裁判官 杉山英巳)

○控訴趣意書

被告会社 株式会社 コスモス

被告人 堀口昭一

右両名に対する法人税法違反被告事件についての控訴の趣意は左記のとおりである。

昭和五七年五月一二日

弁護人弁護士 三好徹

同 内藤満

同 吉田康

東京高等裁判所

第一刑事部 御中

第一点 原判決には明らかに判決に影響を及ぼす法令の適用の誤りがあるので、その破棄を求める。

一、 本件公訴は、起訴独占主義(刑事訴訟法二四七条)、起訴便宣主義(同法二四八条)の法意に鑑みるとき、憲法所定の法の下の平等に合理的な理由なく牴触し、検察官における裁量権の範囲著しく逸脱した濫用に渡る違法なものであって本件公訴は刑事訴訟法三三八条四号に基づいて棄却されるべきものであるから、原判決は同法三七八条二号に違反する。

以下に、原審に顕れた証拠に基づいて、詳細に述べる。

二、 被告会社コスモス(以下、被告会社という)は、昭和五〇年ころ設立された有限会社堀口商会を前身とするが、玩具小売店店頭に設置した、玩具販売機を利用して、極めて安価な玩具を販売する独自の販売方針を採用し、株式会社コスモスに組織並びに商号変更してから、急激に売上高が増加し、事業規模の拡大に経理面がついてゆけなくなり、前記販売方針の特殊性もあって(利益の発生を認識することが困難)、近代的な経理管理とは到底かけ離れた状況に在った。

また、被告人堀口昭一(以下、被告人という)は、被告会社の代表取締役であるが、専ら営業のみを担当し、被告会社においても、営業第一主義を標榜して、経理、税務は会計顧問である松井弘税務会計事務所に一任していた。殊に、被告人の前妻である堀口芳江が昭和五四年一二月、被告人と離婚し、それまで行っていた原始的かつ不充分な経理処理すら行わなくなってからは、松井弘会計事務所において、被告会社法人名、代表者署名、経理責任者署名を記載し、代表者印もありあわせの印章を用いて押印し、全面的に松井弘会計事務所の判断において財務諸表を作成するなど税務会計上の権限一切は、右事務所に委譲されていた。

帳簿類に関しても、松井弘会計事務所は、被告会社の決算期間際になると、被告会社から現金出納帳、銀行出納帳、手形帳、期末買掛金、未払金残高一覽表並びに日計表一綴の一切をダンボール箱二個分位にして預り、仕訳を経て財務諸表を作成し、課税額を被告人に報告した後、これを返還していた。

三、 松井弘税務会計事務所内部においては、同事務所の従業員であり、税理士松井弘の息子である松井道人が被告会社の記帳・決済の責任を分担して行い、課税額の報告も行っていた。

昭和五四年九月下旬ころ、松井道人は、被告会社から預った売上日計表、金銭出納帳等の会計帳簿を用いて仕訳のうえ、被告人に対し、決算における所得額の報告をした。

右報告によると被告会社の昭和五四年度の利益額は、約金七億円ということであり、税額はその六〇ないし七〇パーセントということであった。然るに、被告会社の真実の利益額は金約三億五、〇〇〇円であり、法人税額は約一億四、〇〇〇万円に過ぎないことが後日発覚した。

以上のように、利益額として約金三億五、〇〇〇万円、課税額としても二億円ないし三億円もの差額が生じたのは、専ら松井道人及び松井弘税務会計事務所の不注意に基づく。

即ち、第一に、被告会社においては、営業担当従業員が営業成績において社内的に高い評価を得んと、本社に提出する営業日計表に過大な売上高を記載することが、むしろ恒常化しており、被告人は、これを慮って、松井道人に対して、売上の基本となるのは、営業日計表並びにこれに基づいて作成された売上日計表ではなく、銀行入金額である旨を明示に申し伝えていた。然るに松井道人は、専ら被告会社から受領した売上日計表を以て売上高とし、また売上日計表における販売手数料計算に関しても明白に不自然な点が存し、その正否について検討を要すべきは当然なのにもかかわらず、これを怠り、売上高を計算したものである。

第二に、松井道人は、前記利益計算において、当期末買掛金等の一部を計上し、コンピューターへ入力をすることを忘れ、更に、一応の計算後も、女子従業員の作成した決算書類に十分な検討を加えることを怠ったため、利益計算が過大なものとなってしまった。

特に、昭和五四年六月期末の現金残高は、マイナス三、二〇〇万円という極めて不合理な試算結果となったにもかかわらず、松井道人は、申告期限がさし迫っていることを口実に、特段に原因を追求することをしなかった。そして、その書類上の不自然さを回避するために、独自の判断で架空の借入金を計上するという驚くべき安直さで会計処理を行ってしまった。

以上のような基本的ミスは、被告会社から毎月多額の報酬を受領していたにもかかわらず、税理士松井弘が、税理士資格を有しない松井道人に事務所としての税務会計実務を一任し、松井道人においても女子従業員とコンピューターを盲信する同事務所の無責任体制に起因するものに他ならない。松井道人は、自己が責任をもって行った筈の利益計算に自信が持てないままに、専門家を装い、一企業の死命を決すべき課税額を確定的なものとして報告したものである。

四、 松井道人から過大化され、誤った税額を告げられた被告人は驚愕した。右金額は、被告人の予想していた金額をはるかに超過しており、被告会社の担税能力から見て支払うことが不可能なものであった。

被告人は、被告会社の営業担当者としての立場から松井道人から告げられた巨額の課税額全額を支払うことは、余剰資金の殆ど存しない被告会社にとって不可能事であること、仮に相当額を支払っても、企業競争力は完全に失われ、被告会社は倒産のやむなきに至る可能性が大であると判断した。仮にそのような事態になれば、被告人の十数年にも亘る努力は一挙に水泡に帰し、それ以上に被告人を含む被告会社従業員約六五〇名の生活の基盤は失われてしまうため、被告人は、そのような事態を避けるべく税務会計の専門家(と信じた)松井道人に対して、何とか税負担を最小限度にくい止めて欲しい旨を必死の思いで懇請したものである。

勿論、会計事務に関する知識を全くと言って良いほどに欠く被告人としては、かかる危機的状況を回避するにどのような具体的な方策が有るかは知るべくもなく、松井弘税務会計事務所に全てを一任する趣旨で「何とかしてくれ」と頼み込むのみであった。勿論被告人において、国法に違反する意図が全く無かったという訳ではないが、松井道人に対して依頼した趣旨には、同人の税務会計専門家としての技量を充分に発揮して、支払義務のない税金に支払わずにして欲しい(いわゆる「節税」)旨の希望が多分に含まれていたことも否定し難いものである。被告人は、松井道人に対し、「何とかして欲しい。利益が八、〇〇〇万円から一億円程度にならないか」と尋ねたところ、松井道人は、再調査を、申告期限が迫っていることを理由にこれを拒絶し、しかも、依頼者は会計事務所のお客さんであり、被告会社からは多額の報酬を受け取っているという商業主義一辺倒の意識から、積極的にも消極的にも違法申告を諌めることもなく、むしろ、「その程度では税務署が見逃してくれる筈もない」、「売上を削れないか」などと言い、あるいは、「買掛金に関して三倍では多すぎるし、二倍では少なすぎるし、二・五倍位に水増すればよい」などと言って、主導権を握って、違法申告の手引きをしたものである。被告人は、会計事務に関しては全くの素人であり、松井道人に言われるまま、先妻の堀口芳江に電話をし、あるいは、結局、具体的な方策に関しては松井道人に一任し、「あんたは専門家なのだからきちんとやってくれ」と申し向けたのみで、その後は、電話で連絡を受けたのみで、後述のとおり松井道人が主体となって作成した申告書を点検をすることすらしなかった

五、 松井道人は、独自の判断において本件犯行の具体的な方途を画策し、かつ、これを実行に移した。

即ち、右松井道人は、被告人より買掛金等の残高一覽表を受け取って松井弘税務会計事務所に持ち帰り、女子事務員六名に各取引先ごとに期末買掛金及び未払金の残高の二・五倍の計算を行わせ、仕訳のうえ、これらの合計をコンピューターに入力して原価及び経費の水増しを行った。次に、松井道人は、単独で、電話帳から適当な姓を拾い上げ、その下に「コウギョウ」、「カガク」、「サンギョウ」を付け加えて架空の取引先約一〇〇社の名称を作成し、合計金五、〇〇〇万円の材料仕入高、外注費を振り分けて架空計上したうえ、これを借入金によって処理してしまった。

松井道人は、以上のような計算に従って作成した法人税確定申告書に、法人名、代表者名、計理担当者名を署名し、おのおのありあわせ印を押印したうえ、被告人に右申告書が完成したことのみを告げただけで、郵便で発送してこれを税務署に提出したものである。

六、 以上を総合すると、松井道人は本件事件の発生の端緒に関して重大な責任を負うのみならず、被告人との共謀においてもむしろ主謀者としての地位に在って、虚偽の法人税確定申告書の作成に関して具体的な犯行計画を立て、これに従って直接の実行行為を行ったものであって、被告人と比較しても法益侵害の点においても直接的な位置に在り、行為の反社会性の点においても相当性逸脱の程度は、より大である。更に犯行の動機に関しても、被告人において、被告会社の倒産を免れ、多数の従業員の生活を守るため、(自称)専門家の言に従って、窮余の一策として本件犯行を決意したものであって、緊急避難的な要素すら窺われるのに対し、松井道人においては顧客から税務対策を依頼されるのと、多額の報酬を常日頃受け取っていることを第一に考慮して、自らの会計処理における失敗を探知究明することすら忘れて、安直に違法な確定申告の計画を押し進めており、営利的な要素が極めて強く、結局、社会的非難可能性の程度は被告人と比較しても飛躍的に大きく、同情の余地は全然ない。事件発覚後の松井道人の態度に関しても、積極的に事実の究明に協力する態度を一面において見せ乍ら、真実は自己並びに事務所の統括責任者である税理士松井弘に対する責任逃れに究々とし、被告会社に対する会計事務全般を一任されている地位に見切りを付けるやいなや本件に関する責任を全面的に被告会社、被告人に負わせんとする言動に終始しているもので、反省の色は全く見られない。

特に、税理士松井弘に対する税理士資格のはく脱を伴う刑事責任を免れさせんとする意図は明白であって、松井弘税務会計事務所内部において責任は全面的に自分に所在する旨の言は、日本的やくざの発想に外ならない(最大手の顧問先の会計処理に税理士資格を唯一有し、かつ所長である松井弘が無責任にも全然関与していない、と考えるのは、極めて不自然である)。

七、 然るに、関東信越国税局収税官史は、被告会社並びに被告人のみを昭和五六年一月二三日付告発の対象としており、松井弘並びに松井道人に対する告発の手続は勿論、同庁税理士係において松井弘に対する税理士資格の審査手続すら行われた模様はない。

また、検察官においても、被告会社、被告人に対する刑事責任の追求は徹底して行っているものの、松井弘、松井道人に対する刑事責任の追求を目的とする特段の捜査すら行われていないことは、著しく均衡を失するものと言わなければならない。

被告会社、被告人並びに松井弘、松井道人の違法性並びに有責任の程度、及び情状を比較対照するとき、以上の如き措置は正に異例に属することと言わなければならない。松井道人が自己並びに松井弘に対する虚実とり混ぜての弁解をくり返し乍らも、被告会社らに対する刑事責任追求に有力な詳細・克明な供述・証拠書類等の捜査資料を提出したことを十二分に考慮しても、なおその処分の不公正さには、見逃し難いものが残る。

右の不公正を黙認したうえで敢えて行った本件公訴提起は、検察官の適正を強く要求される裁量権を逸脱した違法なものであり、この点を看過した原判決には明らかに判決に影響を及ぼす法令の適用の誤まりがあるものと思料する。

第二点 原判決は、本件具体的事案に照して重きに過ぎるので、その破棄を求める。

弁護人弁護士 三好徹

同 内藤満

同 吉田康

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